東京高等裁判所 昭和25年(う)5068号 判決
論旨は原判決が証拠として引用した原田建二の副検事に対する昭和二十四年三月七日附供述調書は証拠能力のないものであると主張するものである。よつて順次検討するに
右の供述調書に検察官が供述者に対してあらかじめ供述を拒むことができることを告げた旨の記載のないことは所論のとおりである。しかしながら、右の供述調書は、原田建二を刑事訴訟法第一九八条によつて被疑者として取り調べた際のものでなく、他の者に対する被疑事件につきいわゆる参考人として同法第二二三条により取り調べた際の同人の供述を録取したものであることは、右調書第一葉の欄外に「(参考人分)」との記載があることからも明らかであり、また論旨自身もこれを認めているところであつて、かように刑事訴訟法第二二三条により或る者を被疑者以外の資格において取り調べる場合においては、いわゆる供述拒否権の存在を告げる必要のないことは、同条第二項において同法第一九八条第二項の規定がこの場合に準用されていないことに徴して明白であるといわなければならない。もつとも、本件の場合、右原田建二に対する取調事項は、同人が被告人に対し、選挙運動報酬及び投票報酬資金として合計金二万円を供与したかどうかということなのであつて、被告人の罪責に関するものであると同時に、所論のごとくその必要的共犯としての原田建二自身の衆議院議員選挙法違反の罪責に関するものであるから、同人としてはその事項については憲法上自己に不利益な供述を強要されない権利を有するものであり従つて取調官としては取調に先立つてそのことを告げるのが親切な処置だというべきであろうが、もともと供述を拒否する権利のあることとその権利の存在を供述者に告知することとは別個のことがらであつて、右の告知の手続は憲法上の要請ではなく、刑事訴訟法がその独自の立場からこれを規定したにすぎないものでそのいかなる場合にこれを告知するかは専ら同法が決定するところに属するのである。そして、前記の同法第一九八条の規定と第二二三条の規定とを対照して考えれば、同法は或る者を被疑者の資格で取り調べる場合にのみこの告知を取調の方式として要求しているものと解するのを相当とするから、参考人として取り調べた本件のような場合には、これを告げなかつたからといつて取調の方式に不備があるということはできない。また、このことをもつて直ちに右原田建二の供述が任意にされたものでない疑があるということもできないから、この点の論旨は理由がない。